20代の頃、フランスで2年間の語学留学をしていました。フランスの大学語学コースは、きちんとした資格が取れる割には門戸が広く志願しやすいので、実に様々な学生がいます。自費留学生の他にも、アメリカなどのプログラム提携を行っている所からの交換留学生がグループでどっさりいましたし、フランス人と結婚して働きながら勉強をしている、という人も多くいました。

ある時、台湾人・韓国人の友人と一緒に食堂カフェでだべっていた時のことです。各自がとっている選択授業についてああだこうだと話していたのですが、さっとテーブルに影がよぎりました。背の高い美人がエスプレッソカップを手に立っていて、「私もお邪魔していい?」と微笑んでいるのです。

誰も何も言わないうちに彼女は空いていた椅子に座り、砂糖をエスプレッソに入れ始めました。「私も、今度どの授業を選択しようか迷っている所なので…皆さんの話を参考に聞きたいわ。」

艶やかなストレートボブの黒髪を揺らすこの30代美女は、ロシア人でした。なぜわかるかと言うと、クラスメイトのロシア人となまりがそっくりだったからです。彼女は私たちの選択授業品評をふんふんと聞き、そうして不敵に美しい微笑を浮かべると「どうもありがとう、いい午後を…」と去って行きました。黒いトレンチコートから出た、見たことのないくらい長い足の先には、見たことのないくらい高いピンヒールがきらめいてカツカツと音を立てていました。香水のCMでも見ているような気分でした。

彼女が残していった空のエスプレッソカップには、マニキュアと全く同じ色の鮮やかな朱色の口紅が存在感をきかせていました。私が青年実業家か何かだったら、彼女はスパイなのかもしれぬと疑ったでしょうが、実際にはただの学生なので心配はいりません。

「モデルみたい。あんな人も、学生なんだね…」のどかな台湾友人がつぶやきました。恐らく私たちの脳裏には、各国語で同じ単語が躍っていたのだと思います。私の場合はもちろん日本語で、『ロシアより愛をこめて』。

その他にも、セブ島留学体験者の声をあつめてみました。